大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)184号 判決

事実

原告主張の事実。原告は、昭和三〇年三月二八日、訴外清水晶に対し、金二、〇〇〇、〇〇〇円を、弁済期、昭和三〇年四月三〇日、弁済期日に支払わないときは、訴外深田祥照が被告に株券寄託中の大協石油株式会社増資新株式三、〇〇〇株その他の物件を代物弁済として原告に譲渡する約定の下に貸付け、被告作成の昭和三〇年三月二八日付深田宛大協石油株式会社増資新株式三、〇〇〇株の株券預証及び深田祥照作成の右株券代理受領の白紙委任状の交付を受け、その後右貸金の弁済期日を昭和三〇年五月三一日に延期したが、右期日に弁済を受けなかつた。原告は、白紙委任状附株券預証引渡による株券引渡請求権取得の商慣習により、被告に対し、大協石油株式会社株式三、〇〇〇株の株券引渡請求権を取得したから、被告に対し右株券の引渡並に引渡執行不能の場合の損害金の支払を求める。

被告(山大証券株式会社)は、原告主張の商慣習の存在を争つた。

理由

証券業者である被告作成の本件株券預証及び深田祥照作成名義の本件株券代理受領の白紙委任状を原告が所持していることは当事者間に争がない。

原告は、「証券業者が株式の名義書替ないし保護預かりのため株券を預かり株券預証を発行した場合、右株券預証は株券預け主名義の株券代理受領白紙委任状とともに転々流通し、白紙委任状附株券預証を取得した者は株券預証発行の証券業者に対する株券引渡請求権を取得する商慣習がある。」と主張するけれども、これを認めるに足る証拠なく、かえつて鑑定人田中美雄(大阪証券取引所会員課長)の供述によれば、株券預証を発行する証券業者にとつて、株券預証の引渡による株券引渡請求権の移転は全く予想されていないところであつて、原告主張の商慣習の存在しない事実を認めることができる。

証券業者の発行する株券預証は、株券寄託についての証拠証券であるにすぎず、証券業者にとつて株券預証の引渡による権利の移転が全く予想されていないのであるから、呈示証券性(証券の呈示のないかぎり、権利行使ができず、債務者も弁済できない)を有する記名証券(無記名証券、指図証券のみならず、記名証券を含めて私法理論上の有価証券概念を構成すべきであろう。)であると認めることはできない。記名証券に表彰された権利は指名債権の譲渡に関する方式に従い且つその効力をもつてのみ譲渡することができるのであるが、記名証券については白紙委任状附記名証券引渡による権利譲渡の商慣習法ないし商慣習が有効に成立する余地がある。(昭和一三年改正前の商法施行当時の白紙委任状附株券の譲渡に関する商慣習法)しかし単なる証拠証券について、白紙委任状附証券引渡による権利譲渡の商慣習法ないし商慣習が有効に成立する余地はない。従つて、白紙委任状附株券預証引渡による権利譲渡の商慣習法ないし商慣習の有効成立の肯定は同時に株券預証の記名証券性(有価証券性)の肯定を意味し、逆に、株券預証を記名証券(有価証券)と解しない限り、白紙委任状附株券預証引渡による権利譲渡の商慣習法ないし商慣習の成立の余地はない。

よつて原告主張の商慣習の存在を前提とする原告の本訴請求はその余の争点について判断をなすまでもなくすべて失当。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例